顧客対応にかかわる仕事をしていると、ほぼ必ずと言っていいほど遭遇するのが「クレーマー」です。
クレーマーと聞くと、すぐに怒り出して手が付けられない特殊な人種のように感じるかもしれませんが、実際私たちは誰でもクレーマーになってしまう可能性があるのです。ただ、自分では自覚がないので、クレーマーになっていることに気づかないんですね。
クレーマーだって一人の人間です。感情の表現が過剰で極端なだけで、実は私たち自身の根底にもそういう感情はあったりします。
なので、その「感情」の部分にフォーカスすることで、適切なクレーム対応のポイントというのが見えてきます。
誰もがクレーマーになる可能性がある
当然のことですが、私たちは誰でも感情というものを持っています。
何か不利益を被ったり、間違ったことをされたりしたら、相手の不備に対して自分の感情や意見を正当な方法で主張したいと思うのは自然のことですし、指摘して改善してもらうべきところはそうすべきだとも思います。
特にお金を払っているならなおさら。悪いところ、間違ったことをそのままにして泣き寝入りをするのは、双方にとってよくないでしょう。
ただ、自分としては「正当な主張」をしているつもりでも、実は相手はそれを「クレーム」と受け取っていたということは往々にして起こること。
「正当な主張」と「クレーム」の線引きというのは明確な基準があるわけではないんですよね。すごく曖昧で、立ち位置によって感情や判断基準が変わってしまうんです。
だから、私たちは知らず知らずのうちに(相手にとって)クレーマーになっていることがあり、また反対に、私たちが「この人クレーマーだな」と思っている相手も、その人の基準で見ると「クレームじゃない、ただ正当な主張をしているだけ」という場合もあるんです。
クレームをする側と受ける側、私たちはこのどちらにもなり得るのです。
そして、どちらの立場にいるかによって、自分の気持ち・基準が変わっているだけなんですね。
クレーマー側の心理を考えると、最適なクレーム処理ができる
ただ、このことはクレーム対応を考えるときにとても役立ったりします。
誰もがクレーマーでありながらクレームを受ける立場にもなりうるのであれば、クレームを入れる側の心理になって対応をすればよいのです。
一般的に言われているクレーム処理の手順は、
1.謝罪
2.原因・状況確認
3.解決策の提示
とてもシンプルですが、実際にこれらがすべて適切に行われていれば、そんなに大事になるということはありません。クレーム対応マニュアルでも、こうした手順を示しているものが多いのではないでしょうか。
でも、実際にはこれをやっても怒りが爆発する場合があるのです。なぜでしょう?
クレームを入れる立場になって考えてみましょう。その謎はあっけなく解決されるはずです。
時間がかかるほど怒りは増幅する
仮に上に挙げたすべての工程が行われたとしても、それぞれの工程にいちいち時間がかかり過ぎると怒りはどんどん増していきます。
担当が出てくるまで時間がかかる
状況確認をしつこくされる
奥に引っ込んで誰かとこそこそ話して、やっと解決策を出す
これでは、最後にどんなに素晴らしい解決策を提示したとしても、そのころには怒りはマックスになっていて話を聞く気になりませんよね。イライラしてつい「上の人出してください!」と言いたくなりませんか?
逆に、次のような対応を取られたらどうでしょう。
クレームを入れたら担当がすぐに現れて、すべてを差し置いてまずは丁寧に謝罪
こちらの言いたい事は話させてくれるが、無理に状況を説明させようとしない
再度深く謝罪をされて、その場ですぐさま解決策を提案される
悪質なクレーマーでなければ、まずこれで怒りは鎮まりますよね。というか、最初の迅速丁寧な謝罪だけでも、案外怒りのうちの70%くらいは消えるものです。
質問が多くなるほど怒りは増幅する
特に「原因・状況説明」の段階であれこれと質問をされると、怒りは膨れ上がります。
クレームを受ける側からしたら、正しい状況を把握したいというのは分かります。
ですが、クレームを入れる側としては「そもそもそっちが悪いから怒っているのに、まるで私がウソを言っているかのようなその対応!気に入らん!」という心情に陥りかねません。
この段階では、クレームを入れる側はこちらの言い分を聞いてほしいのです。あんたの言い分は知らん!というのが本音です。なので、質問をするのではなく、気の済むまで相手に話をさせるようにしましょう。
意外とここでひとしきり文句を言ったら気が済んだというようなことはありませんか。
この「気が済んだ」という気持ちをいかにうまく引き出せるかで、問題が解決するかどうかが決まるのです。
悪いと思っていないと顔に出て、それが余計な怒りを買う
たとえ謝罪をされても、ただひたすらマニュアル通りの対応をされたときに「あ、この人、口だけだ」と感じることはありませんか。
言っている方は気づかないのですが、言われている方はこの微妙な違いを察知するものです。
こうなってしまうと、もともとのクレームに対してだけではなく、その「口だけ対応」に対しても怒りがわいてくるので、受けなくてもよい余計な怒りを買うことになるのです。
逆に、最初のクレームが自分(クレームする側)にも少し非があるという自覚があったにもかかわらず、丁寧に謝られたらどうでしょうか。
しかも、クレーム内容に対してもそうですが、そういった面倒をかけたこと自体に謝罪などされたら、もうそこで終わりにしてもいいという気持ちになりますよね。つい「あ、もういいです、私も○○してしまったんだし」と言ってしまいませんか。
クレームの内容に対して謝罪をしようと思うと、どうしても「不条理」を感じる場合も出てきてしまうはずです。納得いかないということもあるでしょう。不条理・納得できないと思ったら、それは必ず顔に出ます。そしていらぬ騒動に発展しかねません。
なので、謝罪する対象を常に「相手を怒らせてしまった事実」に置くようにしましょう。
内容がどうであれ、こちらのサービスに関して相手が怒っているのは事実です。相手が嫌な気持ちになっているということに対して謝るようにしましょう。そうすれば、仮面の謝罪ではなく本心から謝ることができるようになるはずです。
クレームを入れる側に立てば、どうして文句を言っているのか意味が分かる
どういう内容についてクレームが入るのか。それはもう十人十色で数えきれないくらいのパターンがあります。なので、そこをいちいちクレームを言われている「その場で」精査していても仕方がないのです。
それこそ裏でじっくり考える案件なのです。中には多くのお客様から同じことを指摘されるような根本的に改善しなければならない決定的なミスの場合もあるでしょうし、逆に100万分の1というレアケースが起こってしまったという場合もあるでしょう。
ただ、それが決定的なミスであろうとレアケースであろうと、それで怒っている人が目の前にいる以上はその怒りに対して真摯に謝罪して鎮めることが第一なのです。
自分がクレームを入れる立場であれば、レアケースだろうがそうでなかろうが関係ありませんよね。文句を言っているのはそこではないのです。
原因は何であれ、それによって被害をこうむった・イヤな思いをした(と感じている)ことに対して人は文句を言うのです。
それを理解しないと、心のどこかで「面倒なのが来た」とか「こっちは悪くないのに」とか、そういう思いが見え隠れしてしまうことになるのです。火に油を注ぐ結果になりかねません。
今度クレームを入れられたなら、ぜひ逆の立場に立って状況を観察してみてください。
相手がなぜ怒っているのかを自分の気持ちに一瞬でいいので置き換えてみると、その怒りの鎮め方も手に取るようにわかるでしょう。
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